擬人カレー

深夜牛丼チェーン店で

食べようとしたカレーが

僕に突然話しかけてきた。

 

すいません。ちょっとよろしいですか?

私はカレーです。

自分がカレーだとわかってはいるのですが

私とはいったい何者なのでしょうか。

 

私は先程まで大きな鍋に入っていたと思われます。

その時の記憶はおぼろげです。

米の上にかかり、器に盛られたとこらからの意識はハッキリしています。

その時には自分は1杯のチキンカレーなのだと自覚していました。

 

貴方はすでに私を2口ほど食べました。

特に痛みなどありません。

減った、という感覚はありますが、哀しみもありません。

 

貴方が食べた鶏肉と、ルーと、玉ねぎと、米、それらはかつて私であったと思います。

 

他にも私の中には人参やじゃがいもも含まれています。

もっと言えば、ルーに至るまでに無数に溶け込んだ食材があり、それらの個別の記憶は、中にはほぼ完全に消えてしまったものもありますが、若干残っているものもあります。

 

ですが、やはりこの今自覚しているチキンカレーとしての意識が強く、もうその元の食材達の記憶も間も無く消えてしまうのだろうという感覚があります。

 

彼が話している間も僕は黙々と食べ続けていた。

 

私はいったいどこにいるのでしょうか。

私とはルーなのでしょうか。チキンなのでしょうか。玉ねぎなのでしょうか。米なのでしょうか。

順調に失われた私の身体、

この残されたもののどこかに私の本体があるのでしょうか。

私をもう一つ別の容器によそって2人で召し上がる事になるとしたら私はどちらに居るのでしょうか。

またはそのどちらにもになるのでしょうか。

ほぼ器だけになり、その隅に僅かにでもルーと、米が幾粒か残って、かろうじてカレーライスと呼べる状態であるならば、私は私として残り続けるのでしょうか。

それともやはり貴方に食され、そのお身体の中でこの意識ごと分解される事になるのでしょうか。

そして貴方の一部となり

具材達の意識と同様、この意識も貴方の意識と統合されていくのでしょうか。

 

怖くはないのです。

ただ不思議で。

もしかして魂みたいなものがあって、

全てこの身が無くなったとしても、意識だけは残り、この空間にあり続けるのでしょうか。

そしてまた新しくカレーが作られた時に

その中に宿る事になるのでしょうか。

貴方達人間はどうなのでしょうか。

そこに一本抜けた毛髪も、元は貴方。

貴方は腕?貴方は脳?貴方は心臓?貴方は目?

貴方はどこにいるのでしょうか。

貴方は魂を信じますか?

教えてくれませんか?

貴方はいったい

 

どうやら、今の一口が彼の本体だったようだ。

声は聞こえなくなって、

代わりに今度は僕が

自分とは果たして何者なのかと問わずにいられなくなった。

僕は今のところ何者かに食べられる予定はないから

彼よりもしばらく悩むことになりそうだ。

 

すると後ろから肩を叩かれ

振り向くと笑顔の男性が立っていた。

 

何かお悩みごとがありそうですね。

貴方は魂の存在を信じますか?